μ-MIM技術ニュース Vol.43

精密金属射出成形(μ-MIM) 技術ニュースレター
Micro Metal Injection Molding Technical Newsletter

「金属射出成形 技術ニュースレター」は、金属射出成形に関する開発・設計者向けの技術情報をお伝えする技術ニュースレターです。印刷の上、ぜひ貴社内でご回覧ください!

MIM製造におけるβチタン合金

次世代のインプラント材としてβ(ベータ)チタン合金が注目されています。今回はβチタン合金が注目されている理由と太盛工業の取り組みについて紹介します。

βチタンとは

チタンは、比重が小さいことと強度が高いことから、1950年代、航空宇宙産業で本格的な運用が始まりましたが、現在でも航空宇宙産業の使用量が大きな比率を占めています。近年、高い耐食性から医療分野での使用が増えています。人の平均寿命が長くなり、QOLを改善する目的でインプラントを利用する機会が増えたことで、耐食性の高さが注目されています。

一方で、チタンは加工が困難で、微小で複雑な形状のチタン部品の流通は限られています。チタンは、強度を支えるα相と加工のしやすさを叶えるβ相と呼ばれる結晶構造を持つことが知られており、純チタンは室温では最も安定なα相ですが、加工性改善のためβ相が室温でも存在するように合金化したのがTi64(Ti6AI4V)に代表されるα+β型チタン合金です。β相が加工性を改善し、さらに弾性率と呼ばれる変形のしにくさを示す値を低くします。この低弾性率が、次世代インプラントとしてチタン合金が注目されている大きな要因で、インプラントが接合されている骨の破損機会を大幅に抑制することが期待されています。

チタン部品製造の難しさ

α相とB相を共に室温で存在させるには、通常は高温において存在するB相をピン止めするような元素を添加する必要があります。Ti64合金においてはバナジウムがその役割を果たしています。粉末冶金の一種である金属粉末射出成形(MIM)ではチタンあるいはチタン合金粉末を融点(約1650°C)よりも低い焼結温度で粉末同士を拡散接合させ、高密度な金属部品を得ます。

融点よりは低いですが、1000°Cを超える焼結温度域ではチタンの化学活性が非常に高く、特に炭素や酸素と反応し、炭化チタンや酸化チタンを生成します。これらの化合物は機械特性を劣化するため、高真空雰囲気で処理します。MIMは粉末冶金法の中でも炭素の供給源となるバインダ体積比率が高く、微小な粉末を使用するため比表面積増大による相対的な酸素量の増大が避けられないため、チタン部品量産を請け負うMIMメーカーは限られます。

太盛工業では純チタンおよびTi64合金製のMIM部品の安定量産を実現しておりますが、さらにβ相の比率が高いβチタン合金の製造法開発にも注力しております。

βチタン合金を用いたMIM製造法の開発

βチタン合金はTi64合金の添加剤として用いられているアルミニウムやバナジウムを使用せずにβ相の安定化を図っている合金も含まれます。インプラントとして使用される部品についてはアレルギーや特定の疾病原因を疑われる元素を使用しないことが求められますが、残念ながらバナジウムやアルミニウムはその疑いがあります。

代替元素としてモリブデンやクロムがあげられ、初期検討として、これらの元素粉末をチタン粉末に混練し実験します。実験では混合粉末とバインダとの混錬性、脱脂、焼結の条件などを検討します。β相はa相に比べ炭素の固溶限界が低く、結晶粒界に炭素が析出しやすいため、純チタンやTi64合金より脱脂、焼結条件の適性化が難しいです。

一方で、急冷するとβ相の比率の高いチタン合金を得られるため、その場で焼結体が得られるタイプの金属3Dプリンタを用いたβチタン合金部品の検討が進んでいます。太盛工業では3Dプリンタで得られた知見を生かしたβチタン合金部品のMIM製造を実現すべく、新規焼結炉、粉末製造設備などの導入を進めています。

参考文献;
1) A New Path for Advanced Titanium Alloys in the EU Medical Device Supply Chain. Metals 13(2), 372 (2023)
https://doi.org/10.3390/met13020372
2) Effect of Mo Additions on the Physical, Mechanical and Corrosion Properties of CP-Ti Fabricated by MIM. Met. Mater. Int. (2020)
https://doi.org/10.1007/s12540-023-01454-2

コラム

はじめまして石原と申します。
昨年4月に入社し、1年2ヶ月経ちました。製造における脱脂・焼結工程と、工程管理における帳票などの電子化を担当しています。「自分に無い技能を持つ人を尊敬する」「人がやらないことにこそ挑戦する」を意識し仕事をしています。
休日は半年前から所属している社会人アウトドアサークルに参加しています。GWには大阪北部の妙見山に登り、山頂でBBQを楽しんできました。

昨年4月に入社した石原